和室の室礼
室礼(しつらい)という言葉は普段あまり耳にすることはありません。そもそも、平安時代に宴(うたげ)や儀式などを行うハレの日に、寝殿造りの母屋(もや)や庇(ひさし)に調度品を置いて室内を飾ったことをいいます。
それが時代と共に「季節の移り変わり」や「しきたり」や「人生の節目」にあわせて部屋を飾って楽しむことをいうような意味になりました。家具や調度品で装飾し、無性格の部屋を豊かな空間に変える「モノ」ではなく、「ココロ」の豊かさにあふれた言葉です。
節分、端午の節句、七夕、お盆、十五夜のお月見などの行事にお供えを捧げることも「室礼」です。
どんなに生活が洋風化しても、「和の暮らし」は「和室」として残り、私たちの心と生活から切り離して考えることはできません。先人たちの豊かな知恵と美しい和の伝統に注目してみました。
和室
障子
障子(しょうじ)は日本の代表的な建具であり、和室の美しさを最もよく表現していると言われます。中世、日本を訪れた外国人が「日本の家は木と紙でできている」と言ったのは、障子のイメージが鮮烈だったからではないでしょうか。
直射日光を適度にさえぎりつつ、光を拡散して室内を柔らかい明るさで包みます。繊維の膨張と収縮によって通気性があり、温度や湿度を適度に保ちながら換気できる上、断熱性も兼ね備えています。
白木と白のコントラスト、直線的でシンプルなデザイン、そして優れた機能性。今高く評価されている素材です。
畳
畳には柔らかい感触と適度な弾力性、そして気分をリラックスさせてくれる独特の匂いがあります。新しい畳表から発するイグサ独特の香りの芳香成分には、心と身体を落ち着かせてくれる「アロマセラピー効果」があり、畳にゴロンと横になる心地よさは、他の床材では味わえないものです。
畳の掃除の基本は拭き掃除・雑巾がけ。そうすることにより不思議なクッション性・足ざわりが残ります。半乾きのお茶がらを畳の上にまき、ホコリが沈んでからほうきで掃くと、茶がらにホコリがからみついてすっきりお掃除できます。
畳は吸放湿性に優れているだけでなく、空気中の有害な二酸化窒素(NO2)を吸着し、自然と室内環境を浄化してくれているのです。
保温断熱効果があり夏は暑さを遮断しひんやりと冷たく、冬は寒さをさえぎり室内の暖かい空気を逃がしません。
さらに除湿器のように湿気を吸ってくれます。天然素材ならではのよさです。
床の間
床の間の起源は室町時代にさかのぼります。
僧侶が壁に仏画を掛け、その前に机を置き三具足(みつぐそく:香炉・花瓶・燭台)を置いたのがルーツだといわれています。やがてそれは建物に造り付けの奥行き60cmほどの押板(おしいた)となり、貴族や武家の住宅にも広まり、長い年月を掛けて床の間の形になったといいます。
床の間といえば掛け軸に生け花。いらっしゃるお客様に合わせてその都度替えるのが礼儀、おもてなしの心だそうです。
「室礼」を手軽に楽しめる空間ですから、あまり難しく考えず自分なりに飾ってみてはいかがでしょうか。豪華な生け花ではなく野の花を飾ってもいいし、お気に入りのインテリア雑貨を置いてもいいし、和にこだわらず例えばキリム(幾何学模様の絨毯)を合わせてみても素敵ではないでしょうか。
和の伝統
うるし
漆は優れた天然染料
漆器は英語で「JAPAN」。日本を代表する伝統工芸です。
潤んだような美しい光沢とまろやかな手触り。乾くとこの上なく堅牢で、薬品にも冒されにくい性質を持っています。
一年を通して湿度の高い日本では、通気性を重視するため無塗装の家具が主流でした。ですが唯一漆だけは耐湿性を持つすぐれた天然染料として、各地で保護され発展したのです。
取扱の注意
漆でかぶれるのは、漆の主成分「ウルシオール」の毒性によるもの。製品となって完全に乾燥した漆には、かぶれることはありません。
漆家具の取扱
漆は紫外線に弱く、色あせしたり光沢がなくなったりシミがつきやすくなったりします。直射日光や熱が長時間あたる場所には置かないでください。
普段は乾いた柔らかい布で乾拭き。汚れはすぐにふき取ってください。
もし表面の艶が消えてしまったら、綿にごく少量の菜種油をつけて拭いたあと、乾いたやわらかい脱脂綿で油のくもりがなくなるまで丁寧に拭いてください。美しい光沢が蘇ります。
漆器の取扱
漆は汚れが落ちやすく水切れもいいので、水やお湯で汚れを落とし水気をふき取ればきれいになります。もちろん洗剤とスポンジを使っても大丈夫。傷をつけないようにまず漆器を先に洗うようにしましょう。
食器洗い機や乾燥機、電子レンジなど、急激な温度や湿度の変化はタブーです。
何年も使わないでいると、乾燥して傷んでしまいます。時々使って水分を補給してあげると長持ちします。
桐
桐の特性
軽くて持ち運びしやすく、火事にあっても燃えにくい桐箪笥は、江戸時代の大火の後急速に発展します。元来、呼吸し湿度を一定に保つ桐は日本の気候に適した材なのです。
なぜ家具に適しているかをあげるときりがありません。
- ・軽い・・持ち運びに便利。
- ・美しい・・木肌は色白で柔らかく、まっすぐで美しい木目。
- ・虫がつきにくい・・虫をよせつけないパウロニン・セサミンなどが多く含まれる。
- ・腐りにくい・・防腐力が大きいタンニンが多く含まれる。
- ・燃えにくい・・発火点が高く熱伝導率が低い。熱を受けても割れにくい。
- ・吸水性がいい・・火事のとき桐箪笥に水を掛けると、すぐに吸収し火をよせつけない。また膨張し隙間をふさいで中身を守る。
- ・成長が早い・・生命力が強く成長も早い、効率のいい資源。
- ・再生できる・・削れば元の木肌がよみがえる。
桐箪笥の取扱
直射日光や冷暖房を避け、風通しがよく、湿気の少ない、平らなところに設置します。普段は乾いた柔らかい布で乾拭きし、濡れ雑巾や化学雑巾は使用しないでください。
桐は柔らかく、キズや汚れがつきやすいのが難点ですが、無垢板を使ってキチンと造られた桐箪笥は洗い直しをすることで新品同様によみがえります。きちんと職人さんの手で手造りされた桐箪笥は、代々受け継いで3代は使えると言われています。
伝統的な和家具
歴史
日本人の床座の生活には大きな家具は必要なく、明治・大正時代に西洋家具が輸入・生産されるまで「家具」という概念自体、あまり馴染みのないものでした。
それでも、弥生時代に椅子が登場したのをはじめとし、正倉院には書物などを収めた観音開きの「厨子(ずし)」(→イラスト)ほか、さまざまな家具が収められています。
平安後期、寝殿造という住宅様式が確立してからは、部屋を使い分けるために御簾や帳台、屏風などの日本独自の調度品が生まれました。
箪笥が登場するのは江戸時代になってから。それまでは葛篭(つづら)、行李(こうり)、櫃(ひつ)、長持など箱型の収納家具を使用していましたが、生活が豊かになり、物が増え、出し入れのしやすい箪笥へと発展したのです。
明治以降商工業が活発になり、和家具も量産されるようになります。加工技術も向上し、全国各地に家具産地が誕生し、個性豊かな家具が生産されるようになります。
やがて生活の洋風化により和家具の生産量は減少しますが、現在もそれぞれの産地で、伝統を残しつつ新しいニーズに合わせた家具作りが行われています。
古くて新しい
和家具は和室を伝統的に演出するだけでなく、モダンな空間にあわせてもしっくり調和します。
無垢材をふんだんに使い、確かな技術を持った職人が丹精こめて作り上げた和家具は、エキゾチックなジャパニーズアンティークとして海外で人気があるそうです。
国内でも自由な発想で和家具をインテリアに取り入れる人が増えています。
和室のインテリア
マンションにも必ず一室はあるといってもいい和室。フローリングにリフォームしてリビングダイニング(LD)を広く使うケースもありますが、段差を無くして仕切りを開放できるようにし、LDから続く癒しの和の空間として活用されることもあるようです。
低く暮らす
床に座ると天井が高く、部屋が広く感じられます。ロータイプの家具を選び、照明や花器などのアクセントを床に置くと、目線が低くなり圧迫感がなくなります。
長時間床に座っていると疲れてしまうので、ローチェアでゆったりとくつろぐのはいかがでしょうか。
すっきり暮らす
癒しの空間・和の空間として使うなら、家具を最小限に押さえ、カラーを統一して大人の空間にしてはいかがでしょう?
・白と黒のモノトーンに好きなカラーをアクセントで使う
・木の色「茶系」やジャパニーズブルー「藍」を基調に
藍から紫のグラデーションもシックで大人の雰囲気です。
異空間に仕上げる
和室はアジアンテイストやヨーロピアンともよく馴染みます。思い切ってアンティーク調の家具を置き、ファブリックで雰囲気を変えてみても楽しめます。畳の縁が気になるなら、ラグで隠してしまいましょう。
広く使う
押入れはベッドの生活になり布団の上げ下ろしをしなくなると、使いにくい収納になりがちです。しかし、ふすまをはずすと雰囲気が変わります。明るめのカーテンやシェードで目隠しをしたり、奥行きを生かして思い切って見せる収納、ディスプレイスペースにしたりと工夫次第でおしゃれで使いやすい空間にしていきましょう。
上の段をお子様用のベッドにする例を良く見かけますね。「収納する場所」というよりも「和室の延長」と考えると、自由な発想で楽しめそうです。
洋風化しても心豊かな和の伝統を楽しもう
日々の生活に追われ、今日が昨日の続きになってしまうと心の余裕もなくなってきてしまいます。そんな時には暦にのっとって季節の行事を行うことをおススメします。例えば、床の間はなくてもテーブルにお月見のお団子とすすきを飾って日本の四季を楽しんでみてはいかがでしょう。室礼はひょっとして忙しい毎日のストレスを癒してくれるかもしれません。
(2004年2月作成)
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