うるし

「漆」は優れた天然塗料です。潤んだような美しい光沢を持ちまろやかな手触りで乾くとこの上なく堅牢薬品にも侵されません。自然の材料・道具を使いひとつひとつ丹念に作られます。「美術品」「高級品」「伝統工芸品」・・・いえいえ、もっと身近なものなんです。

漆イメージ

「漆」とは?

漆塗りの「漆」は、日本・中国・東南アジアなどに分布する「漆の木」から採れる天然の塗料です。現在使用されているものはほとんど中国からの輸入ですが、主成分のウルシオールの含有率・質共に高い国産のものが、最も品質が良いとされています。漆は漆の木に傷をつけ、傷を覆うようににじみ出てくる樹液を採取します。採ったばかりの漆は「生漆(きうるし)」といい、乳白色から空気に触れると褐色に変わります。乾くと非常に硬くなり、美しい光沢が出ます。また強い接着力を持っていて、接着剤としても利用されたそうです。漆器は英語では「japan」。日本を代表する、伝統的な芸術品なんですね。

漆工芸の歴史

漆工芸は中国が起源で、日本にも中国から伝わったとされています。日本では能登半島・田鶴浜町三引(みびき)遺跡から、約6800年前の漆塗りの櫛が出土しています。ベンガラ(赤色塗料)を混ぜた漆を4層塗り重ねており、そのころからすでに高度な漆技術を持っていたとみられます。縄文時代晩期(前1000〜前300)には土器・弓・装身具などに塗料として使用され、なかでも東北地方の亀ヶ岡文化圏では赤色・黒色の漆をぬった土器・飾り刀・弓・耳飾り・櫛・腕輪・竹をつかった籃胎漆器(らんたいしっき)などが多数出土しているそうです。工芸品としては法隆寺の玉虫厨子が最古。奈良時代には唐のすぐれた技術や製品が伝わり、漆工芸の基礎が確立します。平安時代には蒔絵技法が発達し、建築にも漆工芸が応用されるようになります。その後様々な技術を生み出しつつ、次第に洗練されていき、江戸時代には各藩の産業奨励と工人保護のもと、各地で優れた漆工芸が発達しました。日本で漆工芸が発達したのには、気候も関係しています。日本は一年を通じて湿度が高く、タンスは通気性を重視するため塗装しないものが主流でした。唯一漆だけが耐湿性を持つ塗料として、特権階級の保護のもとに発展したのです。

漆は木の産地によって大きく性質が変わります。また木の一本一本によっても、採取する時期によっても、その日の天候や時間によっても変わってきます。最終的には午前中に塗るか午後に塗るかで仕上がりが変わってくるそうです。そんな漆の扱いには様々な技術が要求され、いくつもの工程があります。大きく分けて「採漆・製漆」「木地作り」「下地・塗り」「加飾」の4つ。さらに各工程がこまかい工程に分かれていて、作業は分業化され、掻子・木地師・下地師・塗師・呂色師・蒔絵師・沈金師など、高度な技術を持った専門家がそれぞれに漆塗りに携わっています。だからこそ堅牢で美しい、質の高い漆工芸品ができあがるのです。

採漆・製漆

漆は漆の木に傷をつけ、にじみ出た樹液を採取します。梅雨の時期、6月中旬頃から11月下旬にかけて、1本の木に何度も傷をつけ採取していきます。雨の振る日は作業できないし、毎日同じ木からは採れないので、1日採ったら3日は休ませるというように、自然と対話しながらの作業になります。こうした作業をする掻子は、日本ではわずか50人足らずだといわれています。1本の木から1シーズンで約200グラムの漆が採れます。汁椀にして約10個分。採取し終わった漆の木は切り倒されます。翌年には「ひこばえ」という芽が出て、次に漆が採取できるようになるには10年から15年かかります。木から採取したままの樹液は「アラミ」、「アラミ」から木の皮など不純物を取り除いたものを「生漆(きうるし)」といいます。これを太陽熱か炭火で水分を蒸発させながら(「くろめ」)、質を均一にするためによくかき混ぜる(「なやし」)と、次第に光沢が出てあめ色の半透明になります。こうして精製したものを「透明漆」「木地呂漆」と呼び、これに顔料を加えると、私たちが漆と聞いてイメージする黒や朱の「色漆」になります。

木地作り

漆塗りの土台となるものを「素地」といい、木でつくられた素地を「木地」といいます。木は一つ一つ性質が違うので、その木の性質を見極め、塗り上がりを予想しながらながら形を作ります。また水分乾燥のために起こる収縮やそりに対応するため、乾燥状態を見極める技術も要します。一人前になるためには10〜15年の修業が必要になるそうです。

下地・塗り

素地を丈夫にし、漆塗りを美しく仕上げるために、様々な工程で下地作りをします。
・刻苧(こくそ)・・木地の継ぎ目に溝を彫り、そこに刻苧漆を埋めて補強します。
・木地固め・・木地表面に直接、生漆(きうるし)を摺り込み素地を丈夫にします。
・布着せ(ぬのきせ)・・糊漆(のりうるし)をもちいて、麻布や絹布、木綿布を貼ります。
・地付け・・砥(と)の粉と少し粒子の荒い地の粉を漆と水で練り合わしたものをヘラで付けて乾燥させます。
・くくり錆(さび)・・砥の粉を水で練ったものに漆を加えた錆(さび)漆を、補強と美しさを表現するために、付けて乾燥させます。

漆イメージ

塗りには「下塗り」「中塗り」「上塗り」があります。
「下塗り」は「中塗り」のくいつきをよくするため、「上塗り」の効果をあげるために、「中塗り」は「上塗り」をより優美なものにするために行われます。いずれも塗りが終わると、漆風呂と呼ばれる高湿度の乾燥室で乾燥させ、塗面を平らにするための研ぎ作業が行われます。「上塗り」は仕上げ工程です。ホコリがつかないよう注意しながら、ミクロの正確さで厚みを均一に仕上げていきます。薄く、何度も塗り重ねることによって、美しくて堅牢な漆工芸品ができあがります。
乾燥は漆がたれないよう、一定時間ごとに上下させながら行います。
漆風呂の温度は25〜30度、湿度はなんと80〜85%。・・・漆は「水分を蒸発させて乾く」のではなく、ラッカーゼという酵素が空気中から水分を取り入れて、主成分ウルシオールを酸化させることによって「固まる」のです。だから漆風呂は高湿度なのだそうです。

加飾

上塗りのあとにさらに技法を加えて紋様を描き出すことを「加飾」といいます。
「蒔絵(まきえ)」・・筆を用いて漆液で絵を描き、漆が乾かないうちに金、銀、錫などの金属粉や朱色、黄色などの色粉を蒔いて紋様をあらわす技法です。奈良時代に発祥したとされています。
「螺鈿・青貝(らでん・あおがい)」・・アワビや夜光貝の貝殻を薄く削って漆塗りの表面にはりこんだものです。貝の持つ不思議な輝きが美しい紋様となります。
「沈金(ちんきん)」・・刀で紋様を線彫りし、漆をすり込み金箔や金粉を沈めたもの。比較的堅牢な加飾で、実用品にも広く用いられています。
このほか、プラスチック素地とスプレーによる拭きつけ塗装が開発されて、シルクスクリーンのような新しい技法も用いられているようです。

うるし問答

Q1 漆ってかぶれないの?

漆でかぶれるのは、漆の主成分「ウルシオール」の毒性によるものです。乾いていない状態の「ウルシオール」は、毒性を発散して漆性皮膚炎をおこしてしまいます。

ですが、製品となって完全に乾いた漆はどんなにかぶれやすい人でもかぶれることはありません。
例えば急ぎの注文品などで、外は乾いていても内部までしっかり乾いていないような場合は、内部の「ウルシオール」から毒性が発散されてかぶれてしまう場合もあります。その場合は約3ヶ月から6ヶ月待ってから使用すると、中までしっかり乾いて完成直後より丈夫になります。

もしかぶれてしまっても、患部を清潔にしておけば1週間ほどで治るそうです。かゆみがひどいときにはお医者さんで薬をもらってください。

Q2 漆家具の普段のお手入れは?

直射日光や熱が長時間当たる場所には置かないで下さい。漆は紫外線に弱く、光によって漆の分子が破壊されてしまいます。色あせしたり、光沢が無くなったり、シミが付きやすくなったりします。
また時間がたつにつれ色が透けてくるという特徴がありますが、光の当たっている部分とそうでない部分で色の違いが出てきてしまいます。 普段は乾いたやわらかい布で乾拭きします。
座卓などで、万一お茶や水をこぼした場合はできるだけ早く拭き取ってください。
もし表面の艶が消えてしまったら、綿にごく少量の菜種油をつけて拭いたあと、乾いたやわらかい脱脂綿で油のくもりがなくなるまで丁寧に拭いてください。美しい光沢が蘇ります。

Q3 漆器を使った後は?

漆は汚れが落ちやすく水切れもいいので、水やお湯で汚れを落としふきんで水気をふき取ればきれいになります。もちろん他の食器と同じように洗剤とスポンジを使っても大丈夫です。
他の食器とぶつかったりこすれたりすると傷ついてしまうので、いっしょにつけおきしたりせず、まず漆器を先に洗うようにするといいでしょう。 食器洗い機や乾燥機、また電子レンジなどは使わないで下さい。急激な温度や湿度の変化で、塗装面や木部を傷めてしまう場合があります。

Q4 漆器をしまうときに気をつけることは?

普段使いの食器

陶磁器や金属の器とは重ねないようにして、直射日光の当たらない棚にしまっておきましょう。漆は擦り傷に弱いので、引きずったりしないで下さい。

普段使わない食器

漆器と漆器の間に布やティッシュをはさみ、薄い布で包んで冷暖房や直射日光の当たらないところにしまいましょう。
何年もしまいっぱなしにすると、乾燥してかえって傷んでしまいます。時々使って洗うことによって水分を補給してあげると長持ちします。

Q5 匂いが気になる・・・

塗ったばかりの漆は匂いが気になることがあります。使って水や空気に触れるうちに匂いは自然に消えていきます。 どうしても気になる場合は、直射日光の当たらない風通しの良い場所に1〜2週間置いておくとよいでしょう。漆器の場合は、米びつの中に何日か入れておくと匂いが消えます。

(2003年3月作成)

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