和家具の世界
「箪笥の数え方の単位は?」普段使う言葉というよりも、「クイズの答え」「雑学」「豆知識」といった感じですね。ちなみに答えは「一棹(さお)」です。
江戸時代初期、火事のときすぐに持ち出せるようにと車のついた長持(図)が流行していましたが、江戸大火の際皆がいっせいに「車長持」を持ち出したため路地がふさがれ大惨事になりました。
そこで江戸・大阪・京都の三都では「車長持」の製造が禁止されます。
代わりに登場したのが「棹」を通して担いで運べるタイプの長持です。
江戸末期から庶民に普及しはじめた箪笥にも、棹通し金具は受け継がれます。それが、箪笥を「一棹、二棹・・・」と数える由来です。
和家具の生い立ち
日本人の床座の生活には大きな家具は必要なく、明治・大正時代に西洋家具が輸入・生産されるまで「家具」という概念自体、あまり馴染みのないものでした。
それでも、弥生時代に椅子が登場したのをはじめとし、正倉院には書物などを収めた「厨子(ずし)」ほか、さまざまな家具が収められています。平安後期、寝殿造という住宅様式が確立してからは、部屋を使い分けるために御簾や帳台、屏風などの日本独自の調度品が生まれました。
箪笥が登場するのは江戸時代になってから。それまでは葛篭(つづら)、行李(こうり)、櫃(ひつ)、長持など箱型の収納家具を使用していましたが、生活が豊かになり、物が増え、出し入れのしやすい箪笥へと発展したのです。ただし、それが庶民にまで普及するのは江戸時代後期になってからです。
明治以降、封建的諸制度から開放されると商工業が活発になり、和家具も量産されるようになります。加工技術も向上し、全国各地に家具産地が誕生し、個性豊かな家具が生産されるようになります。やがて生活の洋風化により和家具の生産量は減少しますが、現在もそれぞれの産地で、伝統を残しつつ新しいニーズに合わせた家具作りが、盛んに行われています。
家具産地
旭川
明治時代中期、旧旭川村に入植した人々が良質で豊富な森林資源を利用して身につけた木工技術が、後の家具作りの基礎となっています。デザインセンスのよい高級家具産地として有名。1990年から3年ごとに開催しているIFDA「国際家具デザインフェア旭川」には世界中から作品が集まります。
静岡
徳川家光が浅間神社を造営した際に全国から集められた職人が駿河に定住。気候に適した漆器作りが盛んになり、その技術が生かされて鏡台作りの産地として有名になります。明治以降は需要に応じて洋家具の生産がスタート。戦後はサイドボードがヒット商品となります。
飛騨
家具作りの歴史は江戸時代、春慶塗の飛騨箪笥などに始まり、大正時代には豊富なブナ材を使用した「曲げ椅子」の生産から洋家具作りがスタートします。そして戦後、「ウィンザーチェア」との出会いにより飛騨の家具は飛躍的に発展します。
「飛騨の匠」・・・7世紀から10世紀にかけて、税の代わりに労役を命ぜられ、都でさまざまな建築物の造営に携わった人々がその技術を持ち帰った。それが「飛騨の匠」の起こりです。その技術や心はさまざまな工芸品にも受け継がれています。
府中
江戸時代の元禄末期、大阪で箪笥作りを覚えた内山円三という人が故郷に帰って制作を始めたのが府中家具の始まりとされています。品質のよさと確かな技術は弟子や子孫に受け継がれ、やがて高級家具の産地として全国的にも認知されます。昭和30年ごろには他に先駆けて婚礼家具セットを開発。収納家具の産地として名声を得ています。
徳島
明治4年廃藩置県によって禄を失った船大工が、それまで内職で培ってきた技術を生かして木工業に転向します。特に、桐箱を作り始めたことから、やがて鏡台作りへと発展。明治20年代には量産されるようになり、「阿波鏡台」として知られるようになります。また昭和10年代には仏壇の製造も本格化しています。
大川
古くを辿れば、室町時代、大川の中心地榎津(えのきづ)に移り住んだ榎津久米之介が、船大工の技術を生かして指物を始めたのが、大川家具の起こりとされる「榎津指物」です。やがて江戸時代後期、榎津生まれの家大工田ノ上嘉作が長崎で箱物の技術を習得。榎津箪笥を改良し高い評価を得ます。以後田ノ上一門は唐木細工やオランダ家具などからさまざまな技術を学び、大川家具の礎を築きます。現在はイタリアの家具の街、ポルディーネ市と姉妹都市を締結。デザイン・品質に優れた家具作りを目指しています。
※ 指物・・釘を使わず、板や棒に穴をあけたり切込みを入れたりして組み立てた箱や箪笥。「指し合わせる」技術のこと。
伝統的工芸品
経済産業大臣が指定する「伝統的工芸品」というものがあります。「伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)」によって、以下のように規定されています。
□日常的に使用するもの
□製造過程の主要部分が手作りであるもの
□およそ100年以上継承されている技術と技法
□伝統的に使用されている原材料
□一定の地域で産地を形成しているもの
和家具の分野で指定されているのは、
歴史は平安時代にまでさかのぼり、茶道文化の確立と共に発展した「京指物」
無垢材を伝統の技法と巧みな細工で堅牢で美しい家具に仕上げる「松本家具」
徳川の時代から武家用・商人用・歌舞伎役者用に発展した「江戸指物」
などがあります。 その他に指定されているのは、「加茂桐箪笥」「大阪唐木指物」「春日部桐箪笥」「名古屋桐箪笥」「岩谷堂箪笥」「大阪泉州桐箪笥」「紀州箪笥」。いずれも伝統の技に裏打ちされた確かな品質と美しさを持つすばらしい家具です。
和家具いろいろ
階段箪笥
狭い町屋で階段の下を有効利用するために作られた箪笥で、箱箪笥とも呼ばれます。作り付けのものと置きタイプとがありました。 庶民の知恵から生まれた箪笥。現在では和室だけでなくリビングにも置けるインテリア商品として人気があります。
船箪笥
江戸時代、商船で使われた箪笥。取引に必要な帳面・金銭・印鑑・硯・筆や羽織袴などが入れられていました。船が難破して海に放り出されても壊れないよう鉄金具で補強された頑丈なつくりで、狭い船内や携行に便利なよう小型化されています。扉には鍵をつけ、全体に装飾が施されています。また盗難防止のため複雑なつくりで隠し箱などが仕込んであります。
帳場箪笥
商家の帳場に置かれ、金品や帳面など商売に必要なものをしまった箪笥。商業都市大阪で特に発達しました。人目につくところに置かれるので、手のかかった高級品が多く作られました。また盗みに入られたとき簡単に見つからないように、からくりが仕込まれたものも多く作られています。
薬箪笥
医師や薬屋などが薬を入れておくのに使った小引出しのたくさんついた箪笥。李朝家具に良く見られます。
和家具は和室を伝統的に演出するだけでなく、モダンな空間にあわせてもしっくり調和します。
無垢材をふんだんに使い、確かな技術を持った職人が丹精こめて作り上げた和家具は、エキゾチックなジャパニーズアンティークとして海外で人気があるそうです。
国内でも自由な発想で和家具をインテリアに取り入れる人が増えています。
(2002年8月作成)
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