椅子四方山話 5 -世界のデザインを楽しむ-
芸術性を楽しむ
木を愛した木工職人の芸術
孔雀が羽根を広げた姿を思わせる、「ピーコックチェア」。背もたれのスポークが矢に似ていることから、「アローチェア」とも呼ばれます。
いずれもデザイナー自身が付けた名ではありません。
整然と美しい背もたれは、肩甲骨の位置を計算してデザインされた必然の姿。幅広のひじ掛けには安心感があります。オリジナルはひじ掛けに濃いチーク材を使い、汚れが目立たないよう配慮されています。きっちり編み込まれた座面は、思ったよりもやさしく、そしてしっかりと身体を受けとめてくれます。
デザイナーはハンス・ウェグナー。
ウェグナーは靴職人の息子としてデンマークに生まれ、父の職人仕事を見て育ちました。500種類を越す椅子をデザインし、「椅子の神様」と呼ばれ、その作品は世界の多くの美術館に永久所蔵されています。
スケッチを元に模型を作り、さらに原寸模型で座り心地を確かめながら作られた椅子は、機能美と木のぬくもり、座る人へのやさしさに溢れています。ウェグナーは、木を愛した優れた木工職人です。
凛と美しい椅子ですが、座ると不思議な安心感があります。シンプルにデザイナーのこだわりと木のぬくもりを楽しみたいところですが、ふかふかのクッションやお気に入りのひざ掛けで自分流にコーディネートするのも楽しいかもしれません。
クオリティーを楽しむ
「神は細部に宿る」
ストレスから開放されてほっと自分を取り戻す時、シンプルで手の込んだこんな椅子なら、全てを忘れさせてくれるかもしれません。
美しく磨き上げられた脚部はゆるやかなカーブを描いています。粗悪な模造品の中には、2本の脚を単純に溶接しただけで交差部分に段差があるものもありますが、オリジナルや良質なジェネリック家具は美しい一体型の「X」です。良質な革を一枚一枚丁寧にキルティングした座面は、適度な張りがあり手の込んだ仕上がりです。
デザイナーは建築家のミース・ファン・デル・ローエ。1929年、バルセロナ万博のドイツパビリオンを設計し、スペイン国王夫妻を迎えるための椅子としてこの椅子をデザインしました。
深く座り込めば、広い座面がしっかりと身体を支えてくれます。 気品と風格のある椅子です。
空間とデザインの調和を楽しむ
椅子の価値
椅子が空気を変える。置いて眺めるだけで上質な心地よさを味わえる。座るとさらに贅沢な気分になれる。そんな椅子があります。映画監督ビリー・ワイルダーのためにデザインされた椅子。チャールズ&レイ・イームズ夫妻が、「よく使い込まれた一塁手のミットのようなあたたかい印象をもたせたい」・・とデザインした椅子。1956年に発表され、今なお全世界で愛されている椅子。その心地よさは格別です。
座り心地のよいパーソナルチェアはたくさんあります。でも、空間を作ることのできる椅子はそうありません。
優れたデザインと座り心地、デザイナーがこめた想い、時代背景、そしてこの椅子を愛した世界中の人が、さらに椅子の価値を高めています。
‘あの’イームズの、‘あの’ラウンジチェアを自分の物にする・・・というステータスを愛してもいいでしょう。オリジナルにこだわるもよし。オリジナルにはオリジナルの、絶対の価値があるはずです。 そして、もっと気軽に楽しんでもいい気がします。このデザインを自分のインテリア空間に加えたい。椅子の歴史に思いをはせながらゆっくりくつろぎたい。デザインと座り心地を楽しみたい。リプロダクトにはリプロダクトの価値があります。
・・・ヘッドレストがあるといいのになぁ・・・
そんなふうに思いながらくつろぐのも、いいんじゃないでしょうか?
「ジェネリック」「リプロダクト」とは?
意匠権の切れたデザインを元に、オリジナルとは異なるメーカーが復刻生産した製品。主にイタリアや中国、その他タイ、ブラジルなどで生産されています。素材や技術の向上・時代のニーズ・メーカーの考え方などにより仕様が変更されている場合もあり、価格や品質は様々です。価値観やニーズが多様化する中で、優れたデザインをより安く買えるリプロダクト家具はオリジナルとは異なる価値をもつといえます。
(2008年10月作成)
本文中に使用している家具・インテリアの写真はイメージです。当社にてお取扱いのない商品が含まれる場合がございます。また、掲載しました情報はコラム作成当時のものとなりますので予めご了承ください。